梅田望夫×羽生善治@シリコンバレーからの手紙

鮮烈な刺激を受けた羽生善治さんとの対話

 数カ月前からお互いのスケジュールを調整して、十一月の東京出張中、久しぶりに将棋の羽生善治さんと食事をした。羽生さんは、ただ将棋が強いという人ではなく、物事の本質を常に考えていて、それを言葉にする能力に優れた人だ。だからいつも新しい発見があり、議論が深くなる。
 羽生さんと私の専門・関心の接点に位置するテーマは、「IT(情報技術)やインターネットが将棋に及ぼす影響・変化」、「コンピュータの進化による社会構造や人間の役割の変化」であり、今回も議論はおのずからそのあたりに収《しゆう》斂《れん》していった。
「ITとインターネットの進化によって将棋の世界に起きた最大の変化は、将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」

そこまでの「高速道路」は整備されたので、才能のある子供が将棋の勉強に没頭しさえすれば、確かにそのレベルまでは一気に強くなれる。しかしそのあたりまで到達した者たち同士の競争となると、勝ったり負けたりの状態になり、そこを抜け出すのは難しい。一方、後ろからもさらに若い連中が同じ「高速道路」を駆け抜けて次から次へと追いついてくるから、自然と「大渋滞」が起きる。結果として若き一群は、前の世代の並のプロたちを抜き去るのだが、そうやって直面した「大渋滞」を抜け出すには全く別の要素が必要となってくるのだろうと、羽生さんは直観する。